日米、対中で経済連携を 米ユーラシア・グループ社長 イアン・ブレマー氏
尖閣諸島をめぐる対立を引き金に、日本企業は中国でデモ隊に襲われた。中国は次々と対日制裁を繰り出し、強硬な姿勢をみせている。背景には中国の経済力の増大がある。以前のように日本の資本や技術を必要としない、と感じているようにみえる。
中国は韓国や台湾などに影響を及ぼし、東アジアで日本を孤立させようとも考えているようだ。国内政治が路線対立を抱えるなか、反日のナショナリズムに訴えるのは、中国側にとって、もっとも安直な手段である。
日本はどう対処すべきか。第一に中国のナショナリズムに対し、ナショナリズムで対抗するのは得策でない。第2次大戦にいたる歴史認識の問題を主たるテーマとして争うことは、控えた方がよい。
積極的に取り組むべきは、米国など経済的な立場を共にする国々との連携である。例えば、環太平洋経済連携協定(TPP)は中国に対抗するうえで大切な手段となる。欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)も重要だ。
ちょっと前までは、グローバル化が進めば、世界が平和にひとつになると、思われていた。そんな「ワールド・イズ・フラット」の時代には、中国は急成長する巨大市場の側面ばかり注目された。
だが今や、世界中を仕切れる国が不在となった「Gゼロ」の時代が到来した。このGゼロ時代においては、政治が経済に対して強い影響力を発揮する。とりわけ中国は政経不可分の国である。
消費財の販売先として深入りするのは、リスクが大きい。政治的に機嫌を損ねると、他の国の商品に簡単に代替されてしまうからである。
中国依存の軽減は大きな課題になる。中国の人件費が上昇していることもあって、米企業はすでに対中投資を抑制しつつある。必ずしももうかる市場ではないことに、米企業の経営者は気づいたのだ。
中国はいずれ自由な市場経済に向かう。そう思われた時期もあったが、今は違う。政府が経済や産業を操る国家資本主義の体制はしばらく変わらない。そんな見方が米国では有力になっている。知的財産権の侵害やサイバーテロなどは、米国にとって現実の脅威である。民主党も共和党もこの認識では変わらない。
米国の中国観が変わったことは、中国との間で厳しい立場にある日本にとって悪い話ではなかろう。日本は米国と手を携え、TPPを「新たな世界貿易機関(WTO)」に育てることに力を尽くすべきだ。TPPが強力な存在になれば、いずれ中国もそのルールに従わざるを得なくなる。
日本の得意技は外交や安全保障ではなく、経済や産業である。歴史認識などで熱くならず、米国と一緒にその手腕を発揮してほしい。(談)
Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評があり、近著に主導国のない時代を論じた「『Gゼロ』後の世界」。ユーラシア・グループは米調査会社。42歳
<記者の見方>日本は体勢立て直せ
米中2大国が世界を牛耳る「G2」の時代が到来した。多くの人がそう考えた2011年初めにブレマー氏は、傑出した指導国が不在の「Gゼロ」世界が到来したと喝破した。今や誰もが認識するGゼロの世界で、大きなテーマは中国の台頭。
どう向き合うか。日本に突きつけられた難題だが、実は米国においても中国はとても扱いにくい存在になってきた、とブレマー氏。米国の変化をとらえ、日本が自らの体勢を立て直せればよい。内にこもっていてはその機会も得られない。
(編集委員 滝田洋一)
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