ウクライナ議会選、与党勝利へ 欧米との関係停滞も
【キエフ=石川陽平】旧ソ連のウクライナで28日、最高会議(国会)選挙の投開票があり、ヤヌコビッチ政権の与党・地域党を含む政権派が過半数の議席を獲得し、勝利する見通しになった。ただ、欧州安保協力機構(OSCE)は29日、今回の選挙戦について「民主化の路線が後退し始めた」と政権側の不正を批判。ウクライナが目指す欧州との経済統合の行方にも影響しそうだ。
人口約4500万のウクライナはロシアと欧州に挟まれた戦略的要衝にあり、両者の勢力争いの主戦場になっきた。
最高会議選(定数450)は、政党別の比例代表と小選挙区の並立制で争われた。中央選管の集計によると、開票率70%の時点で、比例代表制で与党・地域党が33%を得票してリード。2位には欧州寄りで政権と対立し服役中のティモシェンコ前首相の野党連合「祖国」が23%で続く。
3位には14%を得票している政権派の共産党がつけ、与党と合わせた得票率は5割近くに達する勢いだ。一方、野党勢は「祖国」に、著名なプロボクサーのビタリー・クリチコ氏が党首の「改革のためのウクライナ民主同盟(UDAR)」と極右政党「自由」を加えても、約45%にとどまる。
小選挙区では与党がさらに優位に立つ。無所属候補も取り込み、共産党とも合わせた議席数は過半数に達するとの見方が多い。これに対し、野党側は「予想を超える不正行為があった」(クリチコ氏)として、与党が勝つ場合には共闘して抗議行動に訴える構えだ。
今回も「東西分裂」の選挙になった。政権派は大統領の出身地でもあるドネツク州などロシア系住民が大半を占める東部と南部で支持を固め、特に共産党が得票率を伸ばした。与党・地域党も政府組織を通じた圧力や資金力を利用し得票。欧州志向の西部や中部が基盤の野党勢を上回った。
OSCEの選挙監視団は29日、与党による行政圧力に加え、集計作業も「不透明だった」と指摘。昨年10月に禁錮7年の判決を受けたティモシェンコ前首相に関し「不正に選挙から排除された」と政権を批判した。欧州連合(EU)は11月中に開く外相会議で、選挙結果を協議し、対ウクライナ外交の方針を決める。
今回の選挙で厳しい批判を受ければ、欧米との関係が一段と停滞しかねない。3月に欧州連合(EU)と自由貿易協定(FTA)締結など包括的協力を定めた「連合協定」に仮調印したが、前首相の裁判の影響で正式合意のメドが立たない。
ただ、ヤヌコビッチ政権は「欧州との統合」を堅持し、ロシア主導の経済同盟への参加には否定的だ。欧米も権威主義的な同政権への失望感を強めるが、ウクライナがロシアの勢力圏に取り込まれる事態は避けたいのが本音で、双方に妥協を探る動きも出てきそうだ。
問題はウクライナの資金力だ。13年には約400億フリブナ(約3800億円)の対外債務の支払いを迫られ「資金の出し手としてロシアに近づく可能性がある」(ポグレビンスキー政治研究紛争学キエフセンター所長)。ロシアはガスの供給価格引き下げも提示し、欧ロ間で「てんびん外交」を進めるヤヌコビッチ政権を取り込もうとしている。
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