「真の伝統」見極め議論を 女性宮家の創設検討
内閣が5日、女性宮家創設へ向けた制度改正を検討すべきだとする論点整理を発表した。(論点整理の要旨政治面に)
有識者ヒアリングメンバーの一人の所功・京都産業大学名誉教授は「皇室制度の安定のため現行制度の改正が必要だとの方向を示し将来の議論への窓を開いた」と評価している。ただ、女性宮家を一代限りとしていることには「女系天皇論議にしないための配慮だろうが、一代限りと決めつけてしまうと議論の幅を狭めてしまう。皇位継承資格はなくても、宮家として存続を望む国民もいるだろう」と疑問を呈す。
女性宮家に関する議論の出発点は、いかに皇室を安定的に存続させるかにある。しかし、内閣は女系天皇に反対する「伝統派」の反発を招かないよう、皇位継承問題と切り離して検討をスタートした。
にもかかわらず、論点整理全般に伝統派への過剰な意識が目立ち、論点が本筋から離れ、あらぬ方向へ向いている感がある。皇籍を離れた女性皇族に国家公務員として活動してもらうという唐突な提案などは、皇室制度の安定とは無関係ではないのか。
そもそも「皇室の伝統」というとき、それが何を指しているのかを実証的に踏まえる必要がある。
例えば、戦前約20あった宮中祭祀(さいし)の9割は明治期に「創設」されており、大喪の礼・即位の礼などの儀式は欧州の王室を参考にした和洋折衷的なものだった。万世一系、男系継承も明治に確立した思想だ。
一方で、明治国家は奈良、平安から江戸時代まで続いてきた皇室の中国式の儀礼や仏教との関係を断ち切り、1000年以上の伝統を簡単に葬り去った。
伝統派の主張には、明治の創作を皇室古来の伝統と錯覚しているものが散見される。皇室の長い歴史を見ると、驚くほど制度の変化がある。だからこそ、時代に対応し、皇室は存続してきたといえる。
女性宮家問題は皇室の柔軟な歴史の線上で考えるべきだろう。狭い伝統観に固執することは、ひいきの引き倒しになりかねない。
(編集委員 井上亮)
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