「破天荒」:天荒の地から現れたすぐれた(男)

「破天荒」 粗悪な状態覆す 
2017/9/10  阿辻哲次   nkを抜粋編集

 中国は広大な国土を擁するが、しかし農業にも牧畜にも適さない荒れ地がかなりの割合を占めている。そんな草木一本すら生えない土地のことを、かつては「天荒と呼び、そしてそのことばは、優れた人材がまったく出現しない土地のたとえとしても使われた。

 敦煌を含む今の甘粛省一帯は、唐の時代まで優秀な人物がまったく現れない「天荒」の地とされていた。なにせそこからは、中央政府の要職にあたる高級官僚を採用するための試験「科挙」で、最終合格者である「進士」はおろか、その第一段階の試験にすら合格する者がいなかったのである。

 ところがある年、その土地出身の劉蛻(りゅうぜい)という男が地方での試験に通り、さらに中央でおこなわれる本試験にも優秀な成績で合格した。人々は彼の快挙を、かの「天荒」の地からも、ついにそれを破る男が現れたのかとの驚きをこめて、「破天荒」ということばで呼んだ。

 「破天荒」とは、慢性的に低劣あるいは粗悪だった状態をうちやぶり、画期的なまでに高尚あるいは優秀な状態を出現させることをいう成語である。それが今の日本語では、単に「前代未聞」とか「驚くべき」という意味に使われている。「破天荒な偉業」というのは正しい使い方なのだが、「がんばっていた社員を離島の営業所に左遷するのは、破天荒な人事だ」というのは、語源から考えれば正しい使い方ではないことになる。

(漢字学者)

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