松尾芭蕉 おくのほそ道 序文朗読 <名作pg
・ 1644年-1694年11月28日
【2分】松尾芭蕉 おくのほそ道 序文朗読月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、
日々旅にして、旅を栖(すみか)とす。
古人も多く旅に死せるあり。
予も、いづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、
漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋、
江上の破屋に蜘蛛の古巣を払ひて、やや年も暮れ、
春立てる霞の空に、白川の関越えんと、そぞろ神の物につきて心を狂はせ、
道祖神の招きにあひて取るもの手につかず、股引の破れをつづり、
笠の緒付けかへて、三里に灸据うるより、松島の月まづ心にかかりて、
住める方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、
[草の戸も 住替る代ぞ ひなの家]
表八句を庵の柱に掛け置く。
【現代語訳】
月日は永遠の旅人(のようなもの)であり、
次々に移ってゆく年もまた旅人(のようなもの)である。
舟の上で一生を送る船頭や、馬のくつわを取って老年を迎える馬子などは、
毎日が旅であって、旅そのものを住みかとしているのである。
昔の人も旅に生涯を終えた者が多い。
自分も、いつの年からか、ちぎれ雲が風に誘われるように、
漂泊の思いが止まず、海辺をさすらって、去年の秋、
川の辺りのあばら家に(戻り)蜘蛛の古巣を払って、
やがてその年も暮れ、春になって霞のかかった空を眺めるにつけ、
白河の関を超えたいと、そぞろ神が身に取りついたように心を狂わせ、
道祖神が招いているようで取るもの手につかず、股引の破れを縫い、
笠の緒をつけかえて、三里に灸を据えているうちから、
松島の月が何よりも気にかかり、住んでいた家は人に譲り、杉風の別荘に移るに際し、
[粗末な草庵も、(人が)住み替わる時がきたのだなぁ。私の出たあとは華やかな雛人形を飾る家となるのだろう。]
(と詠み、この句を発句とした連句の)表八句を伊織の柱に掛けておいた。