「原発メーカーは、事故の教訓を安全技術に生かして」(NK2012/11/5)


経営の視点原発事業で賭け、日立の勝算 日本企業核に国際チーム

 原子力発電プラント事業の先行きは厳しい。国内の新設は見込めない。海外に軸足を移すしかないが、国の支援は期待できない。強力な競争相手も台頭している。原発メーカーの国際再編の先頭に立ってきた日本企業は、はずれくじを引いてしまったのだろうか。
 日立製作所による英国の原発事業会社ホライズン買収の成否が、答えとなるのではないか。原発の運営に踏み込む決断は大きな賭けだが、原発ビジネスの未来形でもあるからだ。
 「エネルギー分野の新たな事業者として歓迎する」。日立のホライズン買収に英国のキャメロン首相がすかさずコメントを出した。
 自動車、製鉄、流通……。英国は幅広く外資を受け入れ、産業競争力を底支えしてきた。中国やインドなど新興国も排除してこなかったが、今回は違った。安全保障にかかわる原発の買収に意欲を見せる中国企業に異論が出たのだ。
 かわって浮上したのが日本だ。1980年代に世界で10社以上あった主な原発メーカーは現在6社。日立、東芝、三菱重工業と、日本企業が半分を占める。日立は米ゼネラル・エレクトリック(GE)と事業を統合し、東芝は米ウエスチングハウスを傘下に収めた。
 米欧メーカーが次々脱落し、原発技術の根幹は今や日本企業が握る。支えたのは、「国策」の下で途切れることなく続いてきた国内の新設だ。日本政府は原発をインフラ輸出戦略の重点にも位置付けてきた
 福島第1原発の事故で状況は変わった。2030年代に原発の稼働ゼロを目指す政府方針の下で、新設は見込めない。自国に造らせないものを、国が外国に売り込むわけにもいかない。
 一方、日本が積み重ねてきた技術や経験への期待は失われていない。国際エネルギー機関(IEA)前事務局長の田中伸男氏は「世界は日本が原発をやめることを求めていない。事故の教訓を安全技術に生かすことを望んでいる」と語る。
 官民一体での中国や韓国の攻勢は激しさを増す。アラブ首長国連邦(UAE)アブダビの原発商談が大詰めを迎えた09年秋、日立首脳がひそかにアブダビ入りしたが、キーマンの皇太子には会えなかった。韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は皇太子と電話で話せる関係を築いていたという。1カ月後、韓国は4兆円の受注に成功する。
 エネルギー政策が迷走する中で「日の丸」を押し立てる限界。生き残りには発想の転換が必要だ。
 売り上げの8割を海外で稼ぐプラント会社、日揮の重久吉弘グループ代表は「オールジャパン」ならぬ、「コアジャパン」を唱える。日本の丸抱えでなく、中核技術は日本が押さえながら、案件ごとに強みを持つ海外勢と組む戦略だ。
 原発商談もその段階に入った。日立はホライズン買収で、カナダのSNCラバリンや英バブコックなど、実績のあるエンジニアリング会社と組む。発電所の運営・保守や資金調達を含む、チーム編成が事業の成否を左右する。日本企業の技術と信頼を核にした“ドリームチーム”。国頼みから決別する原発輸出ビジネスの処方箋だ。実現は最高水準の技術を引き継ぐ日本企業の責務でもある。
(編集委員 松尾博文)
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